宅配便・保険契約・・・ 全国で条例、ルール作り

(2011年10月、朝日新聞)

宅配便、生命保険契約、年賀状の印刷……。こうした依頼を反社会的勢力(反社会勢力)から受け付けないためのルールづくりが各業界団体で進んでいる。2011年10月までに全都道府県で施行された暴力団排除条例が後ろ盾だ。

暴力団排除条例

2010年、兵庫県内の印刷会社を男性が訪れ、墨で書かれた書を厚紙数10枚に印刷するよう注文した。「額縁に入れるもんや」。書の左下には指定暴力団山口組の直系組織の名があった。

社長は「断ってもめると営業が立ちゆかなくなる。社員や会社のリスクを考えると、何も言い出せなかった」と振り返る。

別の印刷会社も断れず、3、4年前から暴力団関係者の注文を受けている。年賀状やお中元・お歳暮のお礼状、暑中見舞いには組の名前が刷り込まれる。印刷会社の関係者は「注文を受けているとイメージは悪いが、断る理由がなかった」と話す。

断る根拠

そんな中、兵庫県では2011年4月に暴力団排除条例が施行され、兵庫県警は県印刷工業組合(神戸市中央区)に暴力団との関係を断つよう要請。組合は2011年10月26日に加盟150社を集め、はがきや名刺などの注文を断る方針を決めることにした。組合の関係者は「これで断る根拠ができた」と話す。

三重県

暴排条例は東京と沖縄で2011年10月施行され、三重県を含めて47都道府県で出そろった。市民や企業に暴力団への利益供与を禁じているのが特徴で、違反すると社名を公表されることも。三重県警など各都道府県警は様々な業界団体に排除を要請しており、業界全体で一斉に排除しようという動きが加速している。

依頼や注文の拒否
ヤマト運輸は指針を社員に配布

ヤマト運輸は2011年10月初めから、組関係者の配送依頼を断っている。組事務所と思われる場所の情報を約5万5000人の運転手から集め、警察に確認したうえで「拒否対象」の把握を進める。断り方をまとめた指針も作り、運転手や現場の社員に配ったという。

運転手に対しては、組名での配送依頼があれば「条例に基づいて警察の指導を受けているのでお取り扱いできません」と断るよう指示。すごまれたり殴られたりした場合は、警察に通報するように指導している。

日本自動車販売協会連合会

生命保険協会も2011年6月、暴力団や関係者とは契約を結ばないと決定。日本自動車販売協会連合会は2011年5月、新車販売拒否を盛り込んだ契約約款の見本を作り、約1600の加盟社に示した。

「利益供与」の線引き

各地の条例が禁じるのは暴力団への「利益供与」。だが、線引きは難しい。

食事の宅配

「組員宅に食べ物を届けたら違反になるのか」。宅配ピザや宅配ずしの業者らでつくる全日本デリバリー業安全運転協議会には、加盟社からの問い合わせが相次いだ。近く店長を集めた研修会を各地で開き、判断の目安などについて警察から助言を受けるという。

警視庁が禁止の事例

警視庁は2011年10月20日以降、ホームページで東京都条例についての疑問にQ&A形式で答えている。組事務所と知りながら、業者が内装工事をしたり防犯カメラを設けたりするのは禁止。コンビニエンスストアで組員に日常生活に必要な食品を売ったり、組事務所へ電気やガスを供給したりする行為は利益供与に該当しない、としている。

警視庁幹部は「暴力団の活動を助長するものが対象で、個人の生活の権利まで侵害するものではない」と説明する。

日弁連の疋田淳弁護士

暴力団側からは「人権侵害」「差別」という声も上がるが、日本弁護士連合会(日弁連)の疋田淳(ひきたきよし)・民事介入暴力対策委員長は「組員は自らの意思で反社会勢力(反社会的勢力)の一員になっており、差別にはあたらない。条例で暴力団との決別が進むことは間違いなく、組関係者との取引が発覚した企業名を積極的に公開することで、排除の効果はさらに高まるだろう」と話している。

業界や企業の取り組み
全国銀行協会
2009年9月 暴力団の普通預金口座の開設拒否
日本建設業連合会
2010年4月 組関係者と分かれば契約解除
日本証券業協会
2010年5月 約款への排除条項導入義務づけ
全日本不動産協会
2011年6月 不動産取引の契約書に盛り込む排除条項導入
生命保険協会
2011年6月 暴力団との団体契約・組関係者との個人契約拒否
日本民間放送連盟
2011年9月 在京キー局5社に対し、芸能人の出演契約書に排除条項盛り込みを要請
利益供与にあたる
  • ホテルが組長の襲名パーティーと知りながら会場を貸す
  • ゴルフ場が暴力団主催のコンペと知りながら開催させる
  • 警備会社が組事務所と知りながら防犯カメラを設置
  • 内装業者が組事務所と知りながら工事
  • スナックが暴力団が経営する会社と知りながらおしぼりの有料レンタルを受ける
利益供与にあたらない
  • コンビニが組員に日常生活に必要な範囲の食品を売る
  • 組事務所に電気やガスを供給
  • 医者が組員を診察
  • 弁護士が民事訴訟で組員の代理人になる
  • 葬儀会社が組員の家族葬のために会場を貸す

※警視庁のホームページなどによる