スパイ・キャッチャー事件で英最高裁が報道差し止め却下判決(島田雄貴)=1988年10月

海外での判決に関するニュースについて、司法ジャーナリストの島田雄貴が短信をお届けします。まずは、イギリス政府のスパイ組織「MI5」の元幹部が、暴露本を出したのに対して、サッチャー首相が差し止めを求める裁判を起こしたというニュースです。最高裁判決では、サッチャー政権側が敗訴し、元幹部が勝訴しました。

サッチャー政権メンツ丸つぶれ

英国内情報部「MI5」の元職員(スパイ)の回顧録「スパイ・キャッチャー」のイギリス国内での公表問題で、英国の最高裁にあたる英上院常任控訴裁判官5人(法官貴族)は13日、英政府の報道永久差し止め請求を却下し“報道解禁”を認める判決を下した。さる1985年9月以来、同書の内容公開は、英国の安全保障に害を与えるとして、100万ポンドとも200万ポンド(約4億5000万円)ともいわれる国費を投じて法廷で争ってきたサッチャー政権は、メンツが丸つぶれの形となった。

元MI5幹部のピーター・ライト
ナセル大統領暗殺計画などを暴露

「スパイ・キャッチャー」は、元MI5幹部だったピーター・ライト氏(72)が、1955年から1976年にかけての英国秘密情報活動の内幕を書いた回顧録。MI5の関係者がハロルド・ウィルソン前英首相の失脚工作を行ったとか、故アンソニー・イーデン首相が、エジプト建国の父、故ナセル大統領暗殺を企てたことがある--など、英情報活動の“汚い手口”の暴露が目玉になっている。

オーストラリアで敗訴
ベストセラーに

英サッチャー政権は、本の内容のどの部分が問題かには触れないまま、ライト氏には元情報部員として秘密保持の義務があり、同書は英国の安全保障を損なうとして、1985年9月、出版元のオーストラリアの出版社を相手どり、出版差し止め訴訟を起こした。しかし1987年9月、英政府は敗訴。英国内では同書は依然、出版禁止となっているものの、世界中で200万部近いベストセラーになった。

判決で、秘密保持の義務を強く非難

同時に上院法官貴族は判決の中で、ライト氏が秘密保持の義務を破ったことも強く非難、ライト氏を英国内での著作権の保護から除外した。つまり、ライト氏以外の者ならだれでも“海賊版”を出して良いことになったわけだ。

情報部員の秘密保護の法制を強化へ

一方、英政府側は、敗訴はしたものの、情報部員の秘密保持の義務という大原則は認められた--と反論。これをきっかけに、むしろ情報部員の秘密保護に関する法制の強化を図る構えだ。

イギリスの現役閣僚が「法廷侮辱罪」で有罪判決~=1991年11月(島田雄貴)

島田雄貴が配信する海外判決ニュース(無料)。今回は、イギリスの現役閣僚が「法廷侮辱罪」で有罪判決を受けたというニュースです。

英控訴院

英控訴院は29日、サッチャー政権のキーマンであるケネス・ベーカー内相に対し、法廷侮辱罪で有罪判決を言い渡した。現職閣僚に同罪が適用されたのは、これが初めて。最大野党労働党は直ちに、内相の辞任を求めた。

高等法の命令を無視
政治亡命を求めてきたザイールの教師を国外追放

判決によると、英内務省は、反政府ストを組織したため、投獄、拷問され、迫害の危険があるとして、昨年秋ニセの旅券で英国に入国、英政府に政治亡命を求めてきたザイールの教師(28)に対し、主張は信用できないと、その申請を却下。この事件を審理した高等法院が、拷問を受けたとの医師の診断をもとに、同教師の国外追放の見合わせを命令したにもかかわらず、内務省はさる5月、国外追放に踏み切った。

上院(一部で最高裁の権能を持つ)に上告へ

ベーカー内相に対する今回の判決は、命令無視の責任を問われたもの。内務省では、上院(一部で最高裁の権能を持つ)に上告するとしている。

パンナムの爆破・墜落事故に賠償免除の判決(島田雄貴)=1991月10月

米連邦最高裁

1988年にパンナム機が英国で爆破・墜落した事故の遺族が、パンナムなどを相手取って懲罰的損害賠償支払いを求めていた裁判で、米連邦最高裁は15日、「航空会社に懲罰的損害賠償支払い義務はない」としたニューヨーク高裁の判決(今年3月)を支持、上告を棄却した。

放牧地にアボリジニーの先住権 豪最高裁が判決(島田雄貴)=1997年2月

オーストラリアから、注目すべき判決のニュースが入ってきました。牧場にアボリジニーの先住権が認められたとのこです。島田雄貴リーガルオフィスのスタッフが、本判決について解説します。

「リース権と先住権は共存する」

オーストラリアが、アボリジニー(先住民)の土地に対する先住権問題で揺れている。これまで、土地が州政府から牧場の経営者にリースされた場合、先住権は消えるとされてきたが、1996年12月末に連邦最高裁が「必ずしも消滅せず、リース権と先住権は共存する」との判決を出したためだ。放牧地への投資を控える動きが出始め、鉱山開発への影響も懸念され、政府は対応に苦慮している。

ウィック族が提訴
ヨーク岬半島

裁判になったのはクインズランド州ヨーク岬半島の3万5000平方キロ。ウィック族が先住権を認めるよう提訴していた。

93年に「先住権法」が制定

オーストラリアには約200年前に英国人が入植した。大陸はそれ以来、入植者の私有地や州政府の所有地などになってしまった。1992年に先住民の土地に対する諸権利が初めて認められ、93年には「先住権法」が制定された。

狩猟、キャンプ、宗教的儀式の権利

この法律は先住民がもともと土地に対する権利を持っていたことを認め、過去の生き方を踏襲して狩猟したり、キャンプを張ったり、宗教的儀式などのため土地を利用したりする権利があることを明確にした。一方で、最高裁は「放牧地としてリースされた場合、先住権は消滅する」との解釈を示し、政府も同趣旨の声明を出していた。

従来の解釈を覆す判決
放牧地のリースはオーストラリア大陸の42%

今回の最高裁判決は、この解釈を覆した。判決は「リース権と先住権が衝突した場合は前者を優先する」と一応の歯止めはかけているものの、今後、同じような訴えが次々に出される可能性があり、補償問題も出てくる。放牧地のリースはオーストラリア大陸の42%に及ぶ。

資源立国

判決が、資源立国オーストラリアの基幹産業である鉱山開発に及ぼす影響も大きい。

新たな鉱区設定を停止

クインズランド州は、牧場の改良や鉱山開発の見通しがつかないとして、リース地にフェンスや貯水池をつくるなどして投資の凍結を宣言、新たな鉱区設定を停止した。

連邦政府に法改正を求める

判決を受け、各州はそろって連邦政府に対し、先住権法を改正して「放牧地リースは先住権を消滅させる」と法に明記するよう求めている。

人種差別禁止法に抵触も

しかし、この法改正は先住民への差別的措置を禁じた人種差別禁止法に触れる恐れがある。

マンデラ大統領の元妻に誘拐罪の有罪判決(島田雄貴)=1997年10月

南アフリカのマンデラ大統領の元妻が誘拐で有罪判決を受け、さらに、殺害の疑惑が浮上しているとのニュースについて、島田雄貴リーガルオフィスが背景をまとめました。

ウィニー・マディキゼラマンデラ

マンデラ南アフリカ大統領の前夫人で、与党アフリカ民族会議(ANC)女性同盟議長、ウィニー・マディキゼラマンデラさん(64)が約9年前に親衛隊の少年=当時(14)=を刺殺していたとの疑惑が急浮上し問題となっている。

ANC全国会議で副議長に立候補へ

前夫人は12月のANC全国会議で副議長に立候補する意向を表明しており、南ア政界で圧倒的な力を誇るANCのナンバー2に就任した場合、副大統領に就任する可能性が強いだけに、国内で波紋が広がっている。

最高裁で誘拐だけの罪で有罪判決を宣告

この少年の死をめぐり、前夫人は既に誘拐、暴行の罪で起訴され、マンデラ氏が大統領就任前の1993年6月、最高裁で誘拐だけの罪で有罪判決を言い渡された。

元親衛隊メンバーの目撃証言

今回あらためて殺害の疑惑が浮上したのは、英国の記者が出版した本の中で、元親衛隊メンバーの目撃証言として紹介したため。証言によると、前夫人は88年の大みそかの夜から翌日未明の間に、少年をリンチの末、刃物で2回突き刺し殺害したという。

ツツ前大主教

人権弾圧事件を調査する真実委員会(委員長・ツツ前大主教)は、今月13日に前夫人の本格的な審問を始める予定。しかし事件から年月が経過しているうえ、ほかの関係者の口は重く「事実解明の見通しは暗い」(サタデー・スター紙)のが現状だ。

ムベキ副大統領

12月にANC議長を引退するマンデラ大統領や次期議長就任が確実なムベキ副大統領も、今のところ前夫人の疑惑に明確にコメントしないままだ。

有力な副大統領候補

政治学者アルフレッド・スタドラー氏は「カリスマ性がある彼女は極めて有力な副大統領候補」と指摘、「ANC上層部が今回の疑惑に懸念を深めているのは事実だが、急進派に人気がある彼女は、結局ANCに必要な存在」と分析している。

弁護士費用 「報酬基準」で細かく規定=1988年10月

アメリカでは「ホームローヤー」という言葉があるように、気楽にトラブルの相談ができる弁護士を抱えている家庭がある。しかし、日本ではよほどのことがないと弁護士に依頼することがないため、費用の面で心配する声が多い。そこで今回は「番外編」として、弁護士費用についての概要をお届けしよう。

費用については、日本弁護士連合会が決めている報酬基準(1984年(昭和59年)5月改正施行)が基本となる。それによると、口頭や電話による法律相談は「30分以内5000円以上、それを超えると30分ごとに5000円以上を加算」となっている。「以上」という記載は極めてあいまいだが、「通常は30分5000円とみていいでしょう」(日本弁護士連合会)。

相談の内容が複雑だったりして、きちんとした文書にしてくれるよう頼むと、「1件10万円以上」と高くなる。

その他、この基準には扱う事件の内容によって、細かく金額が決められているが、大きく分けて、「着手金」と「成功報酬」の2つがある。具体的なケースで見てみよう。

A子さんは、夫の不貞を理由に離婚を決意、調停の場で慰謝料と財産分与、合わせて1300万円を請求した。が、夫が同意しなかったため、弁護士に依頼し、裁判に持ち込むことにした。

この時点で、A子さんは弁護士に着手金を渡さなければならない。金額は民事事件の速算表によって規定されている。まず、離婚自体の経済的利益の価額は算定が不可能だが、そのような場合には原則として500万円とみなすことになっている。そして慰謝料等の請求額1300万円を合わせた合計1800万円が事件全体の経済的利益となる。したがって、着手金の標準額は124万5000円だ。しかし、速算表は、金額に幅(増減許容額)を持たせており、事件の内容や弁護士との交渉しだいでは、90万円弱にまで安くなることもある。この着手金は、裁判の結果に関係なく、依頼時に払わなければならない。

さて、裁判で夫はA子さんに1000万円支払うようにという判決が出、双方とも控訴せず、判決は確定した。この時点で、1000万円と離婚自体の経済的利益の価額500万円を合わせた1500万円に見合う成功報酬が必要だ。額は着手金の時と同じく、速算表により、標準額で109万5000円。ここまでの合計支払額は、標準額で234万円だ。もちろん裁判で負けたときには成功報酬はいらない。

実は、A子さんのケースでは、1000万円の支払い判決が出たのに、夫側はなかなか支払おうとせず、A子さんはその取り立て(強制執行)を同じ弁護士に依頼した。その結果、とりあえず800万円を受け取れた。このときにも通常、別に着手金と成功報酬が必要で、その額は速算表による金額の半分である。

借地をめぐるトラブルの解決や訴訟を弁護士に依頼するときは、「その土地の実勢価格の半分、または借地権価格の高い方」を基に、速算表で計算。ただ、賃料増額請求の場合は「増額分の5年分の金額」を基にすると決まっている。いずれも、前の例と同様に着手金と成功報酬が必要だ。

次に、刑事事件の費用を見てみよう。

例えば、酒を飲んでだれかを殴り、けがを負わせて警察に逮捕されたとしよう。こんな場合の着手金は、最低20万円である。弁護士が警察や検事と折衝し、その結果、起訴猶予になれば、成功報酬としてさらに20万円以上が必要だ。もし、起訴されて裁判となり、その結果、無罪なら30万円以上、執行猶予付きの有罪判決なら20万円以上となる。これらは一応の目安で、傷害致死事件などではもっと高くなる。

額に幅、事前の取り決め大事

このように、弁護士費用にはかなりの幅があるので、依頼するときに、きちんと報酬額を取り決めておくのが賢明だ。一般的には若手の弁護士の方が安く、許容額の最低で済むことも多い。依頼者が貧困なら、さらに減額したり免除することもある。

また、弁護士費用以外に、裁判費用や書類作成費など実費がかかる。弁護士が調査のため出張すれば、その旅費や宿泊代、日当も負担しなければならない。

なお、弁護士費用や裁判費用が払えない人のため、法律扶助制度がある。<1>生活が苦しく、裁判費用などが出せない人 <2>裁判で勝つ見込みがある人--の2つの条件を満たしていると認められれば、だれでも援助を受けられる。立替金は、あとで返還する場合と、免除される場合がある。詳しくは法律扶助協会本部へ。